パスワードと2FAの総点検から続けている「家の在り処マップ」の作業で、保険が丸ごと抜けていることに気づいた。
保険は在り処マップの典型例だと思う。契約している本人が動けない状況でこそ使うものなのに、内容を知っているのは本人だけという構造をしている。しかも僕自身、7本のうち何が何をカバーしているかを、まとめて説明できる状態ではなかった。
そこで証券をひとつずつAIに読ませて、台帳にした。結果として効いたのは金額の集計ではなく、その台帳を別の向きに組み替えさせたことだった。
まず、読ませ方のルールを決めた
作業に入る前に、台帳に書かないものを決めた。証券番号、被保険者番号、生年月日、勤務先の従業員コード。保障内容と金額と連絡先だけを書く。
ファイルはMarkdown1枚で、Gitの管理対象からは外してある(バックアップの暗号化バケツ側で扱う)。この判断は後で効いた。台帳がプレーンテキストだと、次に開いたときAIがそのまま読める。 紙のファイルに綴じてあると、毎回こちらが読み上げ直すことになる。
進め方はこうした。
- 家にある証券を1本ずつ読ませて、契約単位で台帳に追記する
- 保障の種類ごとに横断表(重複と穴)を埋める
- 紙の証券が来ない契約を、メール側から突き合わせる
- 重複と穴を確定させ、各契約の更新期限に合わせて判断する
3番目を工程として最初から入れておくのが大事だった。ネット完結の契約は、家の中に物が存在しない。実際、家の証券を全部読ませ終えた後にメールを subject:(更新 OR ご請求 OR 契約) -category:promotions で検索して、バイク保険の内容を確定させている。家探しだけでは台帳は閉じない。
7本・年187,576円
集め終わった全体像がこれだ。
| 契約 | 年額 | |
|---|---|---|
| ① | 前職の団体傷害総合保険(退職後も継続加入) | 18,960円 |
| ② | ソニー損保 SURE(がん保険+医療特約・終身) | 23,280円 |
| ③ | 勤務先の団体保険(死亡・医療・介護・賠償のセット) | 35,040円 |
| ④ | 前職の団体生命保険(死亡500万) | 4,236円 |
| ⑤ | 賃貸の火災保険(家財のみ) | 5,160円 |
| ⑥ | 自動車保険(団体扱い・13等級) | 58,080円 |
| ⑦ | バイク保険(13等級) | 42,820円 |
| 合計 | 187,576円 |
並べて最初に意外だったのは配分だ。⑥⑦のクルマとバイクだけで年100,900円。全体の54%。医療も死亡も介護も賠償も全部入った①〜④を合わせて81,516円だから、乗り物の保険料のほうが、命と体の保険料より高い。
無駄という意味ではない(対人無制限は削れない)。ただ「保険料が高い」と感じたときに頭に浮かんでいたのは医療保険のほうで、実際に効いていたのは乗り物だった、という程度には認識がずれていた。
台帳を作った時点では、まだ使えない
証券を全部読ませて、保障内容を1本ずつ書き出して、年額を合計する。ここまでやると仕事をした気になる。
でもこの台帳、事故った後には使えない。
契約ごとに整理された台帳は「①には何が付いているか」には答えられる。しかし事故った直後に知りたいのは逆向きの問いだ。いま起きたこれで、どれが使えるのか。
そこで、契約 → 保障 の並びを、出来事 → 契約 の向きに転置させた。
これはAIにやらせるとちょうどいい仕事だった。7本の約款情報を全部同時に頭に置いて、「ケガで入院」という1行のために7契約を横断して拾い直す。人間がやると退屈で、退屈だから抜ける。出来上がったのは25行の表だ。
請求トリガー表
主要なところだけ抜粋する。
| 出来事 | 使える保険 |
|---|---|
| ケガで入院 | ①3,000+②5,000+③7,000=日額15,000円。3本すべてに請求 |
| ケガで通院 | ①3,000+③1,000=日額4,000円 |
| ケガで手術 | ①入院日額の10倍+②5〜20万+③7万 |
| 病気で入院 | ②5,000+③7,000(生活習慣病なら+3,000)=日額12,000〜15,000円。日帰り入院から |
| 病気で通院 | ❌ 1円も出ない |
| がん | 入院②日額10,000円・支払限度なし/手術・放射線あり。ただし診断一時金と通院はゼロ |
| 自動車事故で自分がケガ | ⑥人身傷害3,000万(過失に関係なく実損)+①②③の入院・手術・通院も全部出る=4本から |
| 相手にケガをさせた/物を壊した | ⑥対人・対物とも無制限 |
| 自転車や子どものボールで他人にケガ・物損 | ③個人賠償国内無制限・免責なし・示談交渉サービス付 |
| 外出中に持ち物を壊した/盗まれた | ①携行品損害30万(免責3,000円) |
| 借りている部屋を壊した | ⑤借家人賠償1,000万。※③の賠償は賃貸住宅の損壊が対象外 |
| 就業不能で自宅療養 | ③日額2,000円。休業4日目から最長3年 |
| 地震で家財が壊れた | ❌ 出ない(地震保険なし) |
| 死亡 | ③2,000万+④500万=病死なら2,500万 |
転置してみて、はっきりしたことが3つあった。
1. ケガの入院は3本重なる
日額3,000円、5,000円、7,000円。1本ずつ見ていると、どれも心細い額だ。医療保険を見直そうと思うたびに「7,000円では足りないのでは」と感じていたのは、契約単位でしか見ていなかったからだった。
重ねると15,000円になる。個室に入っても足りる。この保障はもう買ってある。
問題は、重なっていると知らないと3本のうち1本しか請求しないことだ。保険会社は他社契約を教えてくれない。請求漏れは保障不足と結果が同じでいて、こちらは100%自分の落ち度になる。
2. 自動車事故がいちばん請求を漏らしやすい
クルマで事故ってケガをすると、自動車保険の人身傷害(3,000万・過失割合に関係なく実損払い)に加えて、医療系①②③も全部出る。4本から請求できる。
事故のときは相手方との示談や修理でいっぱいになるはずで、そこで「そういえば医療保険にも出せる」と思い出せる自信は無い。この行だけでも表を作った価値がある。
ついでに分かって驚いたのが、人身傷害は歩行中に車にはねられた場合も対象だということ。クルマに乗っていないときのケガまで、自動車保険が見ている。
3. 穴は「病気の通院」と「がんの診断一時金」
そして両方とも、埋めないことにした。理由は後述する。
クルマの最大の発見は「使わない方が安い」だった
車両保険は120万・免責1回目0円で付いている。ぶつけたら直せる、と思っていた。
ただし使うと3等級ダウン、さらに事故有係数が3年続く。いまは13等級で51%引き、年58,080円。ここから3等級落として3年走らせたときの増額を出すと、修理費が10〜20万円程度なら、自腹で払ったほうが安い。
保険は「入っているかどうか」で考えていたが、実際には入っていても使うと損になる領域がある。事故った直後にこれを計算できる気がしないので、「まず修理見積もりを取って、保険を使うかは3年分の保険料増と比べてから決める」と表に書き込んだ。
同じ流れでもうひとつ。運転者の範囲が本人・配偶者限定になっている。つまり帰省先で親に運転を代わってもらった瞬間、何が起きても一切出ない。一方でバイクのほうは友人・知人でも年齢を問わず補償される。貸すならバイクという結論が実生活で役に立つ場面は無いかもしれないが、クルマを絶対に貸せないことは覚えておく必要がある。
AIに判断させなかったところ
ここまでは「読ませて、並べ替えさせる」仕事だ。AIが強いし、間違っても検算できる。
一方で保障が足りているかどうかは、読ませても答えが出ない。ここは計算スクリプトを書かせて、数字で出した。
死亡保障がその例だ。保険会社のモデルプランは5,000万円を勧めてくる。うちの前提を入れて計算し直すとこうなった。
| 年額 | |
|---|---|
| 遺族の生活費(世帯実支出の70%) | −318万円 |
| 遺族年金(遺族基礎+子の加算+遺族厚生) | +211万円 |
| 妻の手取り | +200万円 |
| 教育費を除いた収支 | +93万円 |
生活費は年金と妻の収入だけで回る。つまり金融資産をそのまま教育費に充てられるので、必要な死亡保障は教育費シナリオを私立フルに振っても0円だった。既にある2,500万で足りている。
損益分岐まで出すと、妻の手取りが年38万円。公立中心と標準ミックスなら妻の収入がゼロでも足りる。
モデルプランの5,000万は、専業主婦・金融資産ゼロを想定した一般例だ。間違ってはいないが、前提が違う。 自分の前提を入れて出し直せるようになったのが、今回いちばん実利のあった部分だと思う。
同じやり方で就業不能と地震保険とがん診断一時金も計算して、3つとも見送った。理由は全部同じで、資産形成そのものが保険として効いているからだ。 就業不能を増額して埋まるのは金融資産の8.8%にあたる額で、医療も車両も死亡も「この規模なら自己保険できる」と判定したのと同じ基準になる。
棚卸しの成果は、契約が増えることじゃない。増やさない判断を、根拠つきで下せるようになることだった。
未確定は、埋めずに [ ] で残す
AIに台帳を作らせていて、いちばん意識したのがこれだ。
空欄があると、埋めたくなる。 証券に書いていない項目を、一般論で補完してしまえば表は綺麗になる。だが保険の台帳でそれをやると、請求のときに嘘をつかれることになる。
なので、確認できていないものはチェックボックスのまま残した。たとえば「④の月353円は本当に月払か」「①の約款で就業中のケガが対象になるか」「クレジットカードの付帯保険」。台帳には今も [ ] が並んでいる。
この運用は実際に機能していて、④の353円は2日後に自分で確認して [x] になった。綺麗な表より、未確定が未確定だと分かる表のほうが役に立つ。
FIREを目指していると、判断軸がひとつに決まる
7本もあると「どれを削るか」で必ず迷う。医療保障は①②③で重なっているし、死亡保障は③④で重なっている。
ここで効いたのが、目標が1.5億でありFIREは自己都合退職だという前提だった。判断軸は「FIRE後に残るか」の一本でいい。
そして台帳を横断させたら、逆説的な事実が出てきた。
いちばん厚い③(死亡2,000万・医療7,000円・介護・個人賠償無制限、年35,040円)が、退職した瞬間に全部消える。 定年退職なら退職者向けプランに移行できるが、FIREは自己都合退職なので、最終保険料支払月の末日で自動解約になる。
逆に、前職の団体保険①を僕は「辞めた会社の惰性」だと思って削る候補に入れていた。実際は退職後継続の枠組みで、FIRE後も残る2本のうちの1本だった。しかもこの手の継続は一度抜けると再加入できないのが通常だ。年18,960円は、辞めた後も個人賠償1億と天災付きの傷害保障を持ち続ける維持費として読むのが正しかった。
危うく、残るほうを切って、消えるほうを残すところだった。
②のソニー損保は2012年、24歳のときの料率で終身固定になっている。同じものを今から新規で買うことはできない。これも触らない。
重複を削るときは、残るほうを残す。 当たり前に見えるが、当たり前になるのは「どれが残るか」を先に確定させた後だけだ。
この表は、動揺している自分のために作った
出来上がった請求トリガー表は、保険会社に見せるものではないし、家計を最適化するためのものでもない。
事故や入院の直後、いちばん判断力が落ちている自分が読むためのものだ。だから印刷して、在り処マップと一緒に紙で置いてある。
そこにいちばん大きく書いたのは、保障額でも電話番号でもなくこの一行だった。
損害保険は、事由に該当した日から30日以内に連絡する。
保障がいくらあっても、これを過ぎたら減額されうる。表の中でいちばん高い保障は、たぶんこの一行だ。
そして台帳のほうはMarkdownのまま置いてある。次に更新期限が来たとき、また同じ文脈から続きを始められる。保険は5年後の自分が読み返すもので、そのとき記憶はもう当てにならない。