VO2Maxが戻った——ただし「平均心拍が下がった」は証拠にならないので検算した


前回の記事を、僕はこう締めていた。

VO2Maxが戻ってきたら、また続きを書きたい。

書ける。戻った。

まず結果から

VO2Max(心肺持久力の目安)の月平均を、育休中から最新までつないだのがこれだ。

きれいなV字になった。2026年6月の30.5が底で、7月に33.4、8月に34.4。2ヶ月で約4ポイント上がって、育休中(2025年3〜9月)の平均34.0を超えた。

前回の記事を書いた6月時点では、このグラフは右端が下を向いたままだった。「自律神経は戻ってきたが、VO2Maxはまだ底」と書いて、反応の遅い指標だから遅れてついてくるはず、と様子を見ていた。ついてきた。

でも、これだけでは何も証明していない

嬉しい数字が出たときほど、疑うことにしている。特に今回は、わかりやすい罠があった。

同じ期間、ラン中の平均心拍はこう下がっている。

ラン中の平均心拍
2025年7〜9月168〜173 bpm
2026年7月155 bpm

「心拍が17も下がった、心肺が強くなった証拠だ」——と言いたくなる。でもこれは証拠にならない。なぜなら、同じ期間に僕は走るペースを大幅に落としているからだ。

1kmあたり6分57秒で走っていた2025年7月に対して、2026年7月は8分33秒。1分半以上遅い。遅く走れば心拍は下がる。当たり前だ。心肺が強くなったからなのか、単にゆっくり走っているからなのか、平均値からは区別がつかない。

これは自分にとって都合のいい読み方をしてしまう典型的なポイントで、しかも意図的にペースを落とす取り組みをしている当事者なので、なおさら危ない。「効果が出た」と思いたい動機がこちらにある。

ペースを揃えて比べ直した

なので、同じペース帯で走ったランだけを抜き出して、平均心拍を比較した。速度という交絡要因を固定してしまえば、残った差はフィットネスの差と見ていい。

ペース帯2025年前半2025年後半2026年前半直近(6〜8月)
1km 7分半〜8分半166 bpm (n=7)163 (n=1)163 (n=1)156 (n=8)
1km 8分半〜10分161 (n=2)152 (n=1)153 (n=13)

同じ速度で走って、心拍が7〜10 bpm低い。 これなら「遅く走っているから下がった」では説明がつかない。

しかも直近のサンプルは全部静岡の7〜8月、つまり一年で一番暑い時期のランだ。暑さは心拍を押し上げる方向に効くので、この比較は僕にとって不利な条件で取られている。それでも下がっている。

VO2Maxの上昇と、同ペース心拍の低下。別の系統の指標2つが同じ方向を指したので、ようやく「本当に改善した」と言っていいことにした。推定値のブレなら、こうは揃わない。

やったことは、走る量を増やしただけ

ではこの2ヶ月で何をしたか。特別なことはしていない。走った距離が増えただけだ。

2026年の前半、僕は月に2〜3kmしか走っていない月が続いていた。月1回、3km。それが5月に11km、6月に27.6km、**7月に49.5km(12本)**まで増えた。歩数も1日4,000歩台から6,100歩台に上がっている。

面白いのは、強度を上げずに量だけ増やしたことだ。前回の記事で「毎回ほぼ全力疾走していた」と書いた反省から、ペースは落としたままにしてある。速く走る回数を増やしたのではなく、遅く走る回数を増やした。それで上がった。

(8月が8.1kmと少なく見えるのは、まだ月初だからで、ペースとしては例月どおりだ)

不都合な数字①:一番走った月だけ、回復指標が逆走した

ここまでだと成功譚で終わるが、同じデータからそうでない数字も出てきた。

安静時心拍とHRV(心拍変動、自律神経の回復度の目安)を月別に見ると、こうなっている。

走った距離安静時心拍HRV
2026年6月27.6 km71.3 bpm35.3 ms
2026年7月49.5 km76.3 bpm31.9 ms
2026年8月(途中)73.0 bpm30.2 ms

量を倍近くに増やした7月だけ、回復系の指標が悪化している。 6月の71.3 bpmは育休中のベスト水準そのものだったのに、7月は5 bpm戻ってしまった。

VO2Maxは上がっているので破綻ではないが、これは教科書どおりの「負荷が回復を上回りかけたサイン」だ。心肺が強くなる方向と、体が回復しきる方向が、7月に一瞬だけ食い違った。

90日平均で見ても、安静時心拍は75.0 bpm。改善はしているが、育休中の71.8 bpmにはまだ3 bpm届いていない。VO2Maxだけが先に戻って、こちらは戻り切っていない。

なので「よし、もっと走ろう」にはしないことにした。距離を積む前に、まず回復側を戻す。

不都合な数字②:肝心の睡眠が、そもそも測れていない

じゃあ回復が戻り切らない原因は何か。真っ先に疑うのは睡眠だが、ここで詰まった。

直近90日で睡眠の記録があるのは18夜しかない。 カバー率2割。平均6.3時間という数字は出るものの、記録のある夜だけの平均なので、実態を表しているとは言えない。

理由は単純で、Apple Watchを着けて寝ていないからだ。充電のタイミングもあるし、単に習慣になっていない。

これは今回に限った話ではない。時間を実測して通勤のコストを調べたときにも、同じ壁にぶつかっている。あのときは「通勤で睡眠時間が削られているのでは」という仮説を立てて、結果は削られていなかった。ただしそれは時間の記録から言えたことで、睡眠の”質”のほう——就寝中の心拍変動や睡眠ステージ——は、着けて寝ていないので端から測れていない。回復が足りているのか足りていないのかは、結局わからずじまいだった。

同じ欠損に2回ぶつかっているのだから、これはもう塞ぐべき穴だ。

**改善の打ち手が「もっと頑張る」ではなく「時計を着けて寝る」**というのは、なんだか拍子抜けする結論だけど、データを見る側としてはこれが一番効く。しばらく着けて寝てみる。

おまけ:体重が動かない半年の、中身が入れ替わっていた

もうひとつ、今回のデータで答え合わせができたことがある。7月に書いたリコンプ(体組成の再構成)の話だ。

あの記事で僕はこう書いた。「数ヶ月後、体重計がほとんど動かないままお腹だけ締まっていたら、リコンプは成功ということになる」。

2026年1月から8月にかけての変化がこれだ。

  • 体重:75.0 → 74.1 kg(-0.9 kg
  • 脂肪量:14.8 → 11.8 kg(-3.0 kg
  • 除脂肪体重:60.2 → 62.3 kg(+2.1 kg

体重はほとんど動いていないのに、中身が3kg入れ替わっている。 体重計だけ見ていたら「半年間ずっと停滞」で片付けていた期間だ。体脂肪率15.9%は、記録を取り始めた2023年6月(22.5%)以降で最低になった。

ただし正直に書くと、この除脂肪体重の回復は5月から始まっていて、ジムのメニューを組み直した7月より前だ。だからこれをジムの成果だと言うことはできない。走る量が増えたことや、たんぱく質を意識し始めたことも同時に起きている。要因は切り分けられていない。(そもそも家庭用の体組成計なので、1点の値ではなく傾向で見るべき数字でもある)

まとめ:コストは払いっぱなしではなかった

前回の記事で僕は、資産形成のために健康というかたちでも毎月コストを払っている、と書いた。通勤の往復1時間40分と、8時から20時までの労働が、有酸素能力を削っていく、と。

その見立て自体は変わっていない。でも今回わかったのは、そのコストは払いっぱなしではないということだ。生活を変えたわけでもなく、通勤が減ったわけでもなく、それでも心肺は戻った。

しかも効いた打ち手は「もっと追い込む」ではなく、「遅く走る」だった。1年前の僕は毎回心拍170超で走っていて、それで数字が落ちていた。速度を捨てたら数字が戻ってきた。直感と逆のことが起きている。

数字を疑う手間についても、書いておく価値があると思う。「平均心拍が17下がった」で満足していたら、僕は自分の進歩を証明できないまま「効いた気がする」で終わっていた。ペースを揃えて検算したから、7〜10 bpmという本物の差が出てきた。そして同じ検算の過程で、7月の回復指標の逆走と、睡眠データの欠損という、見たくない数字も出てきた。

いい数字だけを見に行くと、いい数字も信じられなくなる。両方出てくる見方をしておいたほうが、結局は自分のためになる。

次は安静時心拍を育休水準(71 bpm台)に戻すのが目標だ。そのために、まず時計を着けて寝るところから始める。