連載「家庭OS」 第10回 / 全13回

来週のトレーニングを、健康データと空き時間から組んでもらう


健康のレイヤーに戻る。これまで「復職後に数値が落ちた」「育休中がいちばん健康だった」と、健康データを眺める話を書いてきた。今回はその先で、データを行動に変える道具——来週のトレーニングを自動で組んでくれる仕組みの話だ。


「眺めるだけ」では運動は増えなかった

ダッシュボードを作って数値が見えるようになっても、それだけでは体は動かなかった。「VO2Maxが落ちている」と分かっても、じゃあ今週いつ何をやるのか、までは数字は教えてくれない。可視化と行動のあいだには、まだ一段ギャップがある。

そこで、そのギャップを埋める道具を足した。毎週のはじめに、来週のトレーニング案を自動で組んでSlackに届け、カレンダーにも仮で入れてくれる仕組みだ。

健康データ × 空き時間で組む

組み立ての材料は2つ。

ひとつはApple Watchの直近データ。安静時心拍、心拍変動(自律神経の指標)、VO2Max、それに「最後に筋トレ/有酸素をやったのはいつか」。これらを見て、回復を優先すべきか、そろそろ負荷をかけてよさそうか、を判断する。

もうひとつがカレンダーの空き。いくら理想のメニューを組んでも、入る隙間がなければ絵に描いた餅だ。だから予定の隙間を見て、現実に運動を差し込める時間帯にだけセッションを置く。

判定の物差しには、育休中の自分を使っている。あの時期がいちばん指標が良かったので、そこをベースラインにして「いまどれだけ戻れているか」「筋トレや有酸素が空きすぎていないか」を測る。過去のいちばん良かった自分が、基準になっている。

いまは「攻めない」プロトコルに合わせている

ここが個人的に大事なところ。いまの僕は、意図的にトレーニングのペースを抑えている

きっかけは数字だった。別の記事で書いたとおり、自分のランは2025年時点で平均心拍172bpm——走っている間ずっと閾値〜無酸素ゾーンにいて、毎回ほぼ全力疾走していた。これでは有酸素ベースが育たないどころか、体に負荷をかけ続けるだけだ。そこで意図的にペースを落としたら、直近では平均160bpmまで12bpm下がり、復職直後に83.9bpmまで跳ね上がっていた安静時心拍も、いまは育休中のベスト水準(69.9bpm)まで戻ってきた。

だから道具のほうも、VO2Maxが出遅れているからといって「高強度のインターバルを入れろ」とは言わせない。実際、提案として組まれるのも筋トレと低い心拍で抑えたランが中心で、記録にも「ジム後にランニング(低HRプロトコル)」といった形でちゃんと消化された跡が残っている。数値が落ちていても、いまは強度を上げないのが正解、という局面がある。データに素直に従いすぎると、かえって体を壊す。

道具を作るとき、つい「数値を最大化する提案」をさせたくなる。でも健康は、最大化ではなく、その時々の方針に沿わせるのが正しい。いまは回復フェーズ、という人間側の方針を上に置いて、その範囲で提案させている。

忘れても破綻しない作りに

地味な工夫として、Apple Watchのデータが古いまま提案を作らないようにしてある。データのエクスポートを忘れて何日も経っていたら、プランを組むのをやめて「まずデータを出して」と催促する。古いデータで適当なメニューを作るくらいなら、作らないほうがいい。

提案は毎週、同じ週のぶんを作り直しても二重に登録されないようにしてある。自動で回る道具は、こういう「壊れにくさ」を作り込まないと、いつのまにか変なゴミが溜まる。

使っている技術

材料の健康データは、Apple Watch から書き出した Apple Health のデータを集計するPython(安静時心拍・心拍変動・VO2Max・各ワークアウトの最終実施日を出す)。そこに Google カレンダーAPIで見た空きスロットを掛け合わせて、セッションを置き、🏃 Training カレンダーへ登録する。

地味だが効いている作り込みが2つある。ひとつは冪等化——同じ週のぶんを作り直しても、既存のイベントをいったん消してから入れ直すので二重登録しない(自動実行や再実行でゴミが溜まらない)。もうひとつがデータ鮮度ガードで、Apple Healthの書き出しを忘れてデータが数日古いと、プラン生成を止めて「まずデータを出して」とSlackに催促する。古いデータで適当なメニューを作らせないための安全装置だ。

記録メモ: 健康の道具でいちばん効いたのは「やるべきメニュー」を出すことより、「いまはやらない」と言える設計だった。回復が必要なときに休ませてくれる提案こそ、長く運動を続けるには大事だった。攻める提案は簡単で、抑える提案のほうが難しい。

これで家庭OSの型でいう「提案」のレイヤーが、健康でもひとつ形になった。次回からは、これまで紹介してきた道具たちを支える土台の話に移る。まずは、全部のデータを月1で1枚にまとめる「家族月報」から。