連載「家庭OS」 第5回 / 全13回

売らない前提で配分を直す——「次の追加購入だけ」で目標に寄せるナビ


ここからは家計・投資のレイヤーに降りる。最初は、いちばん思想がはっきり出ている道具——保有株を売らない前提で配分を直すナビゲーターの話だ。

地図の回で「投資の判断ではなく、判断を支える材料を黙って用意する役回りに徹している」と書いた。その代表がこれにあたる。


リバランス=売却、をやめた

投資の世界では、配分が目標からずれたら「増えすぎた資産を売って、足りない資産を買う」リバランスが定石とされる。でも僕はこの売る側をやらないことにしている。

理由は、自分の投資哲学が「インデックスのトータルリターンを長期で受け取る」ことに寄っているからだ。値上がりした資産をわざわざ売れば、税金もかかるし、複利の土台も削る。細かい売買そのものが、性に合わない。

そこで道具のほうを哲学に合わせた。売らずに、次の追加購入だけで目標配分へ寄せる。増えすぎた資産は放っておいて、これから入れるお金を足りない側に厚めに振る。時間はかかるが、売却を一切せずに配分はじわじわ整っていく。

やっていること

仕組みはこうだ。保有銘柄をいくつかの系統に分類する——増やすためのコア、配当を狙う系統、守りの債券、遊びのサテライト、といった具合に。そのうえで、

  • いまの配分と目標配分の差を出す
  • 「次に〇〇万円入れるなら、どこにいくら振ると目標に近づくか」を計算する
  • その額を毎月続けたら、目標収束まで何か月かかるかも出す

売却の提案は一切出さない。出てくるのは「次の一手をどこに置くか」だけだ。判断は自分がするが、その手前の面倒な集計と計算を道具に任せている。

通貨配分についても同じ考え方の別レンズを持っていて、為替リスクを資産全体で見て、やはり新規購入だけで通貨の目標に寄せるようにしている。

具体的にどう出るか。たとえば直近のある時点では、外貨の比率が目標の45%に対して48%と、3ポイントほど取りすぎていた。ここでナビが返してくる答えは明快で、「次の追加購入は、全額を円側へ」。外貨を売って減らすのではなく、これから入れるお金の向き先だけで3ポイントのズレを埋めにいく。FIREの目標額に近づくほど外貨の目標比率自体も少しずつ下げる設計なので、放っておいても通貨配分は守りに寄っていく。

配当だけでFIREを測らない

ついでに、よく誤解されるので書いておく。僕は高配当の資産も持っているが、配当だけで経済的自立を測ってはいない

「配当が生活費を超えたらFIRE」という考え方は分かりやすいし人気もある。でも僕の判定はあくまで資産全体のトータルリターンと、年間支出の25倍が積めているか、で見る。配当は受け取って嬉しいインカムのひとつだが、そこを自立の唯一の物差しにすると、無理に高配当へ寄せて全体のリターンを歪めかねない。だからナビも、配当を増やすためでなく、決めた配分に淡々と寄せるために動く。

使っている技術

裏側はけっこう泥臭い。まず保有データは、証券会社のサイトから保有銘柄のCSVをダウンロードしてきて、それを取り込む方式にしている。取り込んだ銘柄を「コア/高配当/債券/サテライト」などの系統に、証券会社の区分+銘柄名のキーワードで自動分類する。

あとは現状配分と目標の差を出して、追加額の最適な振り分けを計算するだけのPythonだ。売買タイミングを当てにいくロジックは一切なく、やっているのは四則演算に近い。通貨レンズのほうは、ファンドごとのUSD比率を設定ファイルに持たせて純資産レベルで外貨/円を出し、毎回「外貨+円=純資産」が一致するかを検算している(パースをミスるとここで合わないので、これが検証になる)。データはすべて Google スプレッドシートに置き、結果も別シートに書き出す。

記録メモ: 投資の道具をたくさん見てきたけれど、多くは「売買のタイミングを当てにいく」方向に作られている。僕が欲しかったのは逆で、売買の回数を減らしても勝手に整っていく仕組みだった。道具は自分の哲学を増幅する。だからまず哲学を決めて、それに合う道具だけを作る。

売らないと決めると、相場が上下しても基本やることは「次の入金をどこに置くか」だけになる。心が穏やかでいられるのが、地味だけど大きい。次回は、その保有を「買ったあと」どう眺めているか——配当の着地予測と、ETFの中身を透かして見る分散度診断の話を書く。